この映画は、短気でアルコール依存症のレイ、その妻ヴァル、そして薬物中毒の弟ビリーを中心に展開する。登場人物中心のストーリー展開で、罵詈雑言が飛び交い、彼らの混沌とした人生を鮮やかに描き出す。レイの過度の飲酒とコカイン使用は、彼の嫉妬と偏執を助長し、暴力的な感情の爆発へと繋がる。レイの虐待に常に晒されるヴァルは、娘を育てながら何とか持ちこたえようとする。ビリーがヘロイン中毒、ホームレス、そして薬物依存による犯罪へと堕ちていく様は、物語の中で最も暗い部分となっている。

オールドマン監督のドキュメンタリー調の撮影法は、この作品に驚くほどリアルな感覚を与えている。登場人物たちは複雑で、誰一人として完全に罪のない人物はいない。それがリアリティをさらに高めている。『ニル・バイ・マウス』はカンヌ国際映画祭でプレミア上映され、大きな反響を呼び、ヴァル役を演じたキャシー・バークの力強い演技で主演女優賞を受賞した。本作を通して、オールドマン監督は監督としての実力を証明するだけでなく、ロンドンの下層階級の厳しい現実を痛烈に描き出した。